時は1993年。さらなる体の成長とともに癇癪はどこかに消えて、その反動に物静かな4歳児となった。けれども発言は相も変わらず「お、お、お」としか言えなかった。そんな私は重大な分かれ道の前に立つことになる。

『障害者認定』

 いわゆる「障害者手帳」を正式に渡すかどうかの知能検査だ。

 実を言うと、現時点での私は「知的障害者」ではない。その認定に必要な「IQ:知能指数」をまだ調べていないからだ。その調べた指数が「市の法令に基づく条件」を満たして、初めて「知的障害者」と認定される。

 2018年時点では分野別の精密検査や手厚いアフターケアなど様々な法設備がされているが、この1993年の時点では「知的障害」など一部の精神科医でしか知られていない全く新しい分野だった。

 しかも現存する研究報告のほどんどがアメリカの医療機関による物だった。事故や薬物による後天的な精神疾患ではない「生まれつきによる脳障害」、彼らの傾向を応用させた社会生活の改善策、アメリカの先見の目によって体系化され始めた頃だった。

 今まで一言「頭がおかしい」「狐が憑いている」など伝統で片づけていた日本の精神医学界には、あまりにも壁が多かった。ましてや詳しく調べる技術を持った研究者や明確なデータが圧倒的に少ない。研究に必要な対象者も予算もない。当時インターネットなど無いから欲しい情報もろくに手に入らないし世間も理解ができなかった。

 いわば何もかもが『未開』の地。

 それに知能検査をして仮に「知的障害」と認定されても、渡されるのは知的障害者用の「療育手帳」ではなく、精神障害者用の「障害者手帳(正式名称:精神障害者保険福祉手帳)」だった。そもそも、この当時は「身体障害」「精神障害」の2択しかなく(当時は身体系は赤表紙・精神系は緑表紙だったが現在は市によって色が違う)、それぐらい未開だったのだ。

 そして私は手帳を取得できるか、取得する必要があるのか調べるために市の知能検査を受けることになった。

 もし手帳を取得すると、どういう利点があるのか。まず身近な物で数点述べると……

◆電車やバスなどの交通料金が安くなる
◆映画館や博物館などの料金が安くなる
◆就職活動も障害者枠で採用されやすい
◆障害年金で国民年金よりも少し貰える

 もちろんこれらは大人に近づくにつれ発揮する物だが、早く取得することに越したことはない。何だか持ってると便利そうだし貰えるなら貰えば? という声も上がりそうだが、そう簡単にはいかない。

 もちろん結果によっては取得不可だし、仮に取得しても「あること」が自動的に決められる。

『普通学級との進路振り分け』

 やや語弊を招く表現になるが…義務教育を受ける以上、適切なカリキュラムを組む必要がある。そのためにも予め「健常児」と「障害児」を差別化する必要があるのだ。より良く合った授業を効率的に受ける、つまり手帳の取得が「これからの人生」を決まるのだ。

 私の住む市が行う知能検査を受け終わった今、手帳と将来の結果はいかに…?

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松本清張
新潮社
1983-01-27

【あとがき】

 できるだけ毎日更新になるよう予約投稿のストックで今この記事を書いている6月5日の1週間前の5月29日、あるニュースが飛び込んだ。
 日本年金機構が障害基礎年金の受給者約1000人余りに対し、障害の程度が軽いと判断して支給打ち切りを検討していることが判明した。対象者には、特例的に1年間の受け取り継続を認めつつ、今年度中に改めて支給の可否を審査するとの通知が届いている。都道府県単位だった審査手続きが全国で一元化された影響とみられるが、受給者の間には「症状は改善していないのに困る」と戸惑いが広がっている。――Yahoo!ニュースおよび毎日新聞より引用

 あいにく政治に疎いのでミスリードを招かぬよう政府擁護・批判的な発言は控えるが、当時の知的障害児のいる家庭にとって『障害年金』は金額は高くなくとも、私たち親が亡くなった後に我が子が「健康で文化的な最低限度の生活」を送る最大の頼み綱であった。

 それこそ「何とかして我が子に手帳を持たせよう」と有力な情報をかき集める親たちがほとんどだった。

 中には「あの市の福祉事務所が検査が通りやすい」という信憑性の怪しい噂だけで、その市に引っ越した家庭・普段よりバカになれと子供に命令した家庭もいたらしいので、それほど親たちは血眼だった。

 あれ?

 そう書いちゃうと「あながち『支給打ち切り』も間違ってない判断ですねん」とも受け取れる内容になるな…。

 こりゃマズい!

 緊急警告! 緊急警告!

 ただいま有毒ガス『ミスリード』が当記事内に蔓延しています!

 正当な判断が出来る間に本日の記事はここで終わります!(サイレンが鳴り響きながら防煙シャッターが閉まる)

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