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 吾輩は根暗である。職歴はまだ無い。端の多い生涯を送って来ました。――みんなが当たり前に持っている見えないモノが生まれつき持っていない「私」。たった一つだけ足りない、それだけで日常は異常を孕み始める。常識というような空漠たる概念を、どう学べばいいか知らないし分からない。けれど常識はそれを決して許さない。これはつまらない絶望と希望で構成された日々の中で「私」を考え、そして失敗するまでの軌跡譚……という執拗な説明文から筆者(LD:学習障害)の悪癖が分かる共感度0%な長文ブログです。

カテゴリ:四半生記+α > いくら水をやっても死んだ種から芽は出ない

 正式にACT塾に通うことになって、再び私は再び受付嬢から番号札を受け取って、塾長がその部屋まで案内してくれた。どうやら担当する先生は理科Ⅰ類3年の男子大生らしい。その先生のいる狭い個室のドアを塾長が開けて一緒に入り、その担当の先生の顔を一目見て私は思った。

「(この人は日本人だな)」と。

 前回の理論と同じで、直感で分かる日本人らしい顔だった。あと銀縁の細い眼鏡がいかにも理系らしくて好感が持てる。

「初めまして、渡辺綿飴と申します」

 今回は塾長よりも先に言いきった。

「初めまして。では授業を始めようか」

 ん…? いえいえ先生、お名前は? この塾は生徒に個人名を言ってはいけない決まりなのかな、理由は知らないけど。前回みたいにこっちから直接聞いた方が良いかもしれない。

「すみませんが…まだお名前聞いてないので教えてくれませんか?」

 あえて言うのだからこれから言う台詞を脳内で練習したいが、カバンの筆記具も机に出さないといけない。二つのことを同時にできないLD(学習障害)の私はまず筆記具を用意した。

 そのとき偶然にも先生が机に出していた束の資料の隙間に何故か先生の運転免許証が挟まっていることに気がついた。しかも先生からは死角の位置で本人はまだ気がついていない。

 そうか、この運転免許証で先生の名前を知ることができる(普通に聞けばいいものを)。私は束の資料の隣にシャーペン置く名目でするりと覗いた。

 そこには「木村根千」という街路樹みたいに木ばかりの字列が並んでいた。

 えっ…?

 あ、これなんて読むの…?

 もちろん下の名前である。あいにく運転免許証の氏名欄には振り仮名などない。

“ねせん…?”

“こん…せん?”

“ねち…こち…?”

 まったく分からない、どうしよう…。

 なら、これはどうだろう。最初から私は何も見ていなくて普通に名前を訊ねる。つまり最初から何もなかった、要するに当初のプランでやればいいのではないか。

 変に考えないで真正面から聞けばいいんだ。聞いても、いいんだよね…?

「それじゃあ今回から通うということで、体験の続きからプリント始めていい?」

「あ、え、はい、いいです、先生」

 先生…先生…「先生」

 呼びかたが決まってしまった瞬間だった。クラスメイトと同じで相手の呼びかたは第一声で決まってしまう。その通りで名前を聞く機会は結局なかった。

 この塾の個別授業も15回目を迎えた。そして私は心の中で憤怒の念が噴出していた。体験期間も含めて授業が中学1年の英語プリントしかやっていないのだ。基礎は大事である、それはバカな頭の私でも分かる。けれど中学1年の英語プリントが全て終わって、また最初に戻って同じプリントをやって、また最初に戻って同じプリントをやるのはどうかと思った。

 ここのプリントは市販の参考書をコピーしているから、せめて違う参考書も用意しても良いのに一向に参考書が変わることがない。

「違う参考書を1回ずつやるより、同じ参考書を2回以上やる方が効果的だよ」と前に読んだ勉強法の本にも書いてあったし、もっと分かりやすい『ドラゴン桜』にも似たような教訓が書いてあったから、そうだと言えばそうなのだが、ただ横にいてこの先生は解いたプリントを渡す度に参考書巻末の解答ページのコピーを取り出しては毎度解答を照らし合わせていた。

 もちろん添削する身としては寸分の狂いもないよう気をつけたいだろうが、いちいち問題文の番号と解答コピーの番号を人差し指でなぞっていく姿はとても現役T大生には見えなかった。ましてや中学1年の英語である、解答コピーがなくてもパッと見れば直ぐに分かるであろう。自分は正しいと思っても参考書が間違ってると判断したら自分も間違ってると答える性格なのかな。間違えた解答には赤のボールペンでバツを入れて、コピーに書かれている正しい解答を書き写していた(そして私は毎度隣でその一部始終を見ていた)。

 中身が分かったのは、プリントを答えている間の興味でふいに聞いた「教養学部ではどういう講義を受けるんですか?」について先生が「僕は工学部だよ」と答えたことだった。

 T大学の学部システムは大変特殊で、入試の際は志望学部で受験するが、合格したら学部関係なく全新入生は前期課程としてまず教養学部に2年間在学する。そして文理の垣根を超えた基礎的な教養知識を身につけた上で3年生となって初めて後期課程の志望学部の学生となる。つまり私は大学1,2年のとき、どういう講義があって、どういうことを学んだのか訊いたのだが、まさかの返答だったので私はシャーペンを置いた。

「…先生ってT大学の学生ですよね?」

「うん、そうだよ」

「だったら1年2年のとき教養学部ですよね? あっ! あれですか、もしかして3年次に編入したんですか?」

「う、うん、そう、そうなんだよ! 実は猛勉強してね、前の大学から移ったんだ」

「そうだったんですかー! 以前はどこの大学に?」

「T海大学」

 知ってる私立の大学だった。私の高校でも指定校推薦の受験リストとして載っている。

「ハハ、ちょうど1字違いですね。それにしてもスゴいですよ、T海大から3年次編入パスしたなんて」

「まあ相当勉強したけどね」

「いやスゴいですよ、T大の3年次編入試験って確か高専(高等専門学校)の卒業生しか受験できないのに合格するなんて。ましてや他大学に在籍する学生への受験なんて認められてないはずですが?」

 なぜ私がこのことを知っているのかというと、第1志望であるT工業大学の3年次編入試験が同じシステムだったからだ。T大・T工大だけではない、世間から高学歴と認められている国立大学はどこもそうなのだ。つまり他大生は国立大の大学院生になれても大学生にはなれないのだ、最初から始めない限りは。

「で、先生は今どこの大学に通ってるんですか?」

 先生はボールペン置いて絶句していた。

「今どこの大学ですか?」

「T…T海大学…」

 この返答に対し『私は激怒した』。

 最悪だ。この人は学歴詐称していた。プリントと違うストレスにやられそうになった。ただ、そうなると塾長はこのことを知っているのか。知っているわけ、ないはずがない。ここの講師は全員がこの塾の卒業生だ。ならば合否の結果など必ず塾長の耳に入るはず。そうすると、答えは一つしかない。

「想像ですが、塾長からT大生と名乗るよう言われてますよね?」

「…うん。それに僕、推薦受かるためのテスト対策でここ通ってたからセンター試験も受けたことないんだよねぇ」

「そして受かったと報告したら、これを紹介されたと」

「履歴書も面接もいらなかったから。つまり、まあ、そういうことです。ごめん」

 先生は謝っていたが、私は高校最後の夏休みを目前にしてACT塾を辞めることにした。事情を話したことで家族の承諾を得て受付に退会を報告した際、奥のデスクにいた塾長の阿久津さんからシンプルに「何で!?」としつこく訊かれたが、もうシンプルにあなたを信用していないのです。だから塾長、申し訳ないですが去らせてください。だからさ阿久津さん、手を引っ張らないで、シャツ引っ張らないで、ズボンも引っ張らないで。

 平然な顔で塾のある雑居ビルを後にしたが、内心では清水の舞台から飛び降りる覚悟で駅に向かっていた。よその塾のカレンダーに基づけば来週には夏期講習に入ると思われるが、これからどうしたものか。それでもACT塾を辞めたことに少しも悔いはなかった。

 ただ唯一の心残りをあげるとしたら……

 木村「根千」

 何て読むのだ。

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【あとがき】

 あとがき3日目。待たせたな最終日。

 まず前提に言わないといけないのが、昨日と同様に人物名は仮名で、塾で出会った出来事や感情は全てノンフィクションでお送りしています。

 ちなみに文中に出る先生の下の名前「根千」の読み方は「もとじ」です。自分が人生で出会った2番目に読めなかった名前(もちろん名字は架空)です。根千で「もとじ」、言われたら読めなくないけど、振り仮名なしで読むのは難しい…。

 当時塾に通ってる間、携帯に住むグーグル先生に頼んで先生の読み方(実際の名前)を調べてもらっても相当特殊なのかコレという読み方は出てきませんでした。

 キラキラネーム…というには奇をてらったような雰囲気はなく、それこそ萩尾望都(実は本名)みたいな誰もが知っている漢字かつ親が思いを持って名付けられたのだろうなと感じる名前でした。

 そして、この記事を書く上で11年越しに再びグーグル先生に頼んでみました。そしたら一つだけ読み方がヒットしました!!

 ありがとうグーグル先生!!!

 ありがとう最新情報窓口!!!

 長い時を経て、その明確化された読み方を目にして私は思った。

「自分が想像してたのと違う…!?」

 それどころかその漢字の読み方でない読み方でした。だったら読めなくて仕方ないよねぇ…(本名を知らない読者はどういう顔して読めばいいのだ)。

 とにかくこれで11年間に積み重なった呪縛の一つが消えました。まだ一つということはまだたくさんあります。もう自分の抱える呪縛でビンゴカード作って、一つ消すごとに穴開けて、タテ・ヨコ・ナナメ揃える毎に自分の欲しかったもの買っていい『おひとりさま呪縛ビンゴ大会』でもやろうかしら。

 ええな、そのアイディア。

 ちょっくら特許庁に行って商標登録出願してきます!(ピーーッ!!)……Suicaと財布の残金が足りなくて帰ってまいりました。

 何か行動を起こそうとすると何か困難にぶつかります。

「本当の人間の価値は、すべてがうまくいって満足しているときでなく、試練に立ち向かい、困難と闘っているときにわかる」――マーティン・ルーサー・キング牧師(1929年~1968年)

 職場でも問題が発生すると、その人たちの人間性が露呈しますよね。ああいう場面でブチ切れる人は雪山山荘の殺人で大ホール飛び出して3番目ぐらいに殺されて、サメ映画で1時間超えた辺りで浅瀬の死角から食われて、ゾンビ映画で主人公との最終決戦で蹴られて下にいる大群ゾンビの中に落ちるんだ。ああいう場面ほど因果応報が似合う場面はないと思います。たまにバッドエンドの映画に当たると画面前に「グアァァァ」と叫びます(『ミスト(2007年:アメリカ)』とか『ミスト(左に同じ)』とか『ミスト(左に同じ)』とか)。

 日常の鬱憤を晴らすために2時間投入して結末最悪だから気持ちも最悪。人生の不条理を描いた系の文学性がなかったら余計に悪質。たぶんここまで読んだ人たちはそういう感情になってると思います。

 1ヶ月以上待たされて長文3話の最後の最後がこういう内容ですからね、余計に悪質です。ということで更新頻度激落ちくんの私なりに考えたんすよ。

「過去編が更新できない日は普通に日常ブログを更新しよう」

 実は今まで過去編しか更新しなかったのには理由があり、過去編をさっさと書き終わらせたい気持ちがあります。当初は漠然とした過去の嫌な出来事を(絵が壊滅的なので)文章で出来るだけ吐き出して気持ちの整理をしたい(あわよくば慰められたい)。そして前提を知ってもらった上で、私もまっさらな気持ちで本格的にブログを始めたい。そういう壮大な計画でした。

 それがどうでしょう。今や記事1つ更新するのに1ヶ月以上かかっています。個人的にプロローグだと進めてたものが、このペースではいつ書き終えるか分かりません。このままでは庵野秀明(1960年~)の『新世紀エヴァンゲリオン』(テレビ放送開始が1995年、完結編の劇場公開が2020年予定)、もしくはゲーテ(1749年~1832年)の『ファウスト』(ゲーテが書き始めたのが20歳、書き終えたのが82歳。そして翌年死去)化しそうです。

 もちろん芸術性追求ゆえの遅筆なのですが、あまたの偉大な先人に大変申し訳ありませんが…生産性低っ!!!

 もう四字熟語に登録しても良いんじゃないですか『生産性低』。その脱却にも何かしらで毎日更新した方が読者と私、両者にとってメリットになると思うのです(当たり前だ)。

 本当は私だって日常で出会った出来事、日々の中で感じたこと、読んだ本や観た映画の紹介や感想、などなどもっとブログに対して期待値下げて自分の好きなものを書きたい。ただ、いつになったらくるのか分からないものに待つのは諦めました。

(※しばらくポエム調が続くので省略)

 似たようなことを先ほどのゲーテも言っていたので、明日から新しい月となる9月以降もよろしくお願い致します。

 ~~お知らせ~~

 そうだ終わる前に…もうお気づきでしょうが、以前に比べてタイトルの話数(数字)が減りました。これは記事が減ったのではなく、前編・後編に分かれた記事を同じ話数表記に整理したためです。なので今回のように3回連続更新しても全て34話になります。

 このようによそでは当たり前なことすら出来ていなかった当ブログを改めてよろしくお願い致します…!汗

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 次に向かった塾は高校3年の始業式後に訪れた学校の駅から歩いて5分ちょっとの雑居ビルにある独立の小さい個別指導塾だった。

 この個別指導塾『ACT塾』の特徴は先生全員が現役T大生なのに学費が大手予備校の約半分なところだ。T大学に合格したACT塾の卒業生を雇うことでこの低学費システムが成立すると塾長の阿久津さん(たぶん60代)が言うのだからそうなのだろう。

 まずは体験期間で週1回の授業5回分を受けることになった。

 体験初日。受付嬢(塾長の娘(たぶん30代))から番号札を受け取って、塾長がその部屋まで案内してくれた。どうやら担当する先生は理科Ⅱ類2年の女子大生らしい。その先生のいる狭い個室のドアを塾長が開けて一緒に入り、その担当の先生の顔を一目見て私は思った。

「(この人、中国人かな?)」と。

 いきなり何を言ってんだと思われるかもしれないが、よく日本人のトンチンカン発言でフランス人とドイツ人とイタリア人をヨーロッパ人という広い括りだけで考えて、見分けが分からない・違いが分からないというのがある。もちろんヨーロッパ圏に住む人たちからしたら見た目の説明以前に感覚で全然違うわけだが、その逆もまた然りで、同じアジア圏でも日本人と中国人と韓国人は見た目の説明以前の感覚で全然違う。

 そして私の感覚が違うと判断したのだ。けど別に勉強さえ教えてくれたらどこの国の留学生だって構わない。だけど顔を見て直ぐに抱いた違和感は何を根拠に思ったのか、本当に合っているのか、そして彼女が本当に中国人なのかどうか、ただシンプルに答えを知りたかった。

 ここでハーフまたはクォーター説が出てくるかもしれないが、そういうレベルではなく純粋な中国人だと脳内が仮説を出す余裕すら与えてくれないのだ。かといって「先生て中国人すか?」と聞くのはトンチンカンすぎるというか失礼の極みだと無意識に理解していた。何より違っていたら凄く気まずい。

 まあ、まず挨拶しないことには何も始まらない。

「あ、はじめま「この子が渡辺綿飴君だ」

 私の第一声は隣の塾長に追い抜かれた。

「ハじメまして。きミが渡辺君ネ。よロしくネ!」

 何かア〇ネス・チャンを彷彿させる少々独特なイントネーションを聞いて思った。

「(この人、中国人かな?)」と。

 どう考えても訛りの範疇ではない発音の歪みを私は感じた。気になる、とても気になる。

「うチの塾ニ来テくれテありがト。基礎から勉強シたいということデ、まず最初ニ中1英語かヤろうと思います。このプリント解いテみテ」

「は、はい、分かりました」

 何てこった、自己紹介がなかった。名前を聞けば少しは分かると思ったのになかった。一度気になると目の前のプリントに集中しにくくなる。

 たぶん市販されている問題集をコピー印刷したであろうプリントだけを私は意識して解いた。

「出来ました」

「じゃツぎはこのプリントネ」

「はい」

 プリントを解いている間、向こうは向こうで別の作業をしていた。何の作業しているのか分からないが、とりあえず様子を見ているのであろう視線は感じた。

「出来ました」

「じゃツぎはこのプリントネ」

「はい」

 提出した解答が間違ってなければ、この会話の繰り返しだった。あまり雑談とか得意ではないから自分から何か話しかけることができなかった。そして授業1回の90分が経った。

「ご苦ロウ様デシた。基本的ナ英文法は出来テるからモ少シ中学単語を覚エ直すト成績モとアップするト思うヨ」

「そうだと良いんですが…。では次回もよろしくお願いします」

「ハイ」

 授業3回目にして私は痺れを切らしたので授業が始まる前の短い準備時間にさりげなく聞くことにした。

「あのー…1回目から思ってたんですが、先生のお名前まだ聞いてないので教えてくれませんか?」

「エッ…ごめん! ソいえば教えテなかったネ。私の名前ハ“張美玲(ちょうみれい)”ト言いマす」

 丁寧にもこれからやるプリントの余白に書いてくれた。この今まで出会ったことない名前に対して私は思った。

「(この人、中国人かな?)」と。

 いや、“張”なんてどう考えても中国の名前ではないか。下だって一見和名だが要は読み方の問題だ。向こうの読み方での向こうの名前の可能性も捨てきれない。しかし、そうだと言い切れない例も私は知っていた。

 トヨタ自動車の張社長(2007年当時)は姓は張だが、先祖が江戸時代まで遡れる純粋な日本人である。この前めざましテレビで桐谷美玲って人が映っていたが、仮に芸名だとしても彼女の顔は典型的な日本人顔だから日本人であろう。だから安易に結論も出せない。

「へぇー! 周りから珍しい(?)名前だって言われません?」

「えっ? 別に言わレタことナいヨ?」

「あー…そうですか。いやぁ今まで会ったことない名前だったので珍しいなと思いまして」

「そお? 私の地元じゃヨくアるヨ」

「へー先生の地元て、どこですか?」

「渡辺君、アまり生徒に個人情報教えちゃイけナい決まりナんだけど…」

「あっ、すみません! 雑談し過ぎましたね。では授業お願いします」

 失敗した。

 せめて地元でも聞けば少しはノドの詰まりが消えると思ったが、もうその線はなくなった。

 まあ時間だって限られているし、もうそんなことは忘れて授業に集中しよう。でも最後に一つだけ聞きたい。

「これから先生のこと何て呼べばいいでしょうか?」

「……二人シかいナいんだかラ先生でイイでしょ?」

 ごもっともです、はい…。

「先生どうでしょう」

「渡辺君ここ間違っテマす」

 あっと言う間に最終日の授業5回目になって、英語のプリント解きながら何気なく私は聞いた。

「先生、たぶん体験期間が終わったらそのままここに通うと思うんですけど、そのときは先生で継続されるんですよね?」

「え、ソれはムり…」

「な、何でですか? 体験と通学では担当違うんですか?」

「ソおじゃナイんだケど…。私ネ、再来週ニ留学スるの」

「えっ先生留学するんですか!? また急ですね…!!」

「ううん半年前ニ決まテた」

「(体験授業とはいえ前から分かっていた講師を何故セッティングしたのかな?)そうですかー…留学先ってどこです? アメリカですか?」

「中国だヨ」

 右手に握っていたシャーペンの力が増した。

 もう…もぉう…何なの。それ本当に留学なのかな。中国の大学なんて北京大学か精華大学しか知らないけど、何を学びに行くの。中国の人文学科系在学ならまだ分かるが、先生理科Ⅱ類じゃないか。中国に何を学びに行くの(※失礼)。

 ただ日本人か中国人か2択の回答を知りたいだけなのに何でここまで苦しむのか…。

「へー中国なんてオレ行ったことないから、どういうキャンパスライフになるか想像がつきません!」

「いヤ普通ニ向こうノ大学ニ通うだケだヨ」

「あ、いやその現地の食事や文化に触れたりとか留学って何かカルチャーショックあるじゃないですか。中国だとどんなショックに出会うのかなー? って少し思ったんです」

「アー…知ラなイし、別ニ興味なイ…」

「そっ…すか」

 いつもの授業が微妙な空気で再開して、そして全5回の体験授業が終わった。せめて応援にと用意した見送りの挨拶を聞くことなく先生は塾を去った。

 1ヶ月後、私は張先生に会った。その日は母からの買い物依頼で下校途中にウチの学校の近くにあるテレビや雑誌で話題になっているケーキ屋に行った。お店の手動ドアを越えて、特に女性客が大行列で並んでいた。30分以上が経って私の番になり、家族が好きな種類のケーキ数個を頼んで待っていたら、お店の奥に併設された喫茶コーナーに目が入って、そして張先生がお友達らしき人たちと楽しく話しながらケーキを食べている姿を見つけた。向こうも気づいたのか視線が合って「(あっ…)」みたいな表情になって、ケーキの箱を受け取った私はお店を出た。それからは一度も会っていない。

(次回に続く)

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井上 純一
KADOKAWA
2015-01-31

【あとがき】

 あとがき2日目。まだ終わらず中編です。

 まず前提に言わないといけないのが、塾名も(芸能人を除く)人物名も仮名です。

 でも塾で出会った出来事や感情は全てノンフィクションでお送りしてます。

 何なら先生の名前なんて、もっと中国っぽい名前だったのでやっぱり中国人だったと改めて思います。

 同じアジア圏でも意外と直感で分かることありませんか。たとえ相手が整形でも、各国の整形のクセである程度分かる気がします。

 国によって美の基準が違うから、大人数が整形しても大人数が同じ一点に集まるわけなので、ある意味では十人十色を消す作業でもあります。

 それが『流行』の悪い部分であり、典型的な『依存』でもあり、『流行』という物体に対する『共依存』でもあります。自身の不快と思う部分を消すことは精神衛生的も大事なことですが、生まれもった個性まで消してしまっては元も子もありません。その人物を構築する容量が絶対100%を満たさないといけないとき、消した個性分をいち早く埋めるとしたらいち早く流行を集めた方が良いです。

 でも流行とはいい加減なもので、たとえ地球にいる70億人以上の知識を寄せ集めても流行の明確な終了点は予測できません。人間の感情など数値化できないからスーパーコンピューター側も本音お手上げだと思います。そうなると流行とは世間の思うビッグデータのさらに外側にいるダークマター(宇宙空間の約95%を構築する未確認物質)的な存在だと思います。別名「空気」とも言いますからね、そりゃ未確認だわ。

 あとファッションリーダーとかインフルエンサーとか呼ばれる人たちは最速でその流行に乗る人ではなく、最速でその流行を切り捨てる人だと思う。人間は両手以上に物を持てないから見込みのない物は躊躇わず捨てる、だからこそ次の物を直ぐに持つ。断捨離にも通じるその潔い姿に人々は「神」と崇める。宗教にも通じる行いの繰り返しが皮肉にも歴史の一部を構築しているのだ。

 な ん の は な し だ 。

 とりあえず張先生が日本人だろうが中国人だろうがテレビや雑誌で話題になって初めてそのケーキ屋に行く自分と同じ人種で、たぶん自分はファッションリーダーにはなれないんだろうな…と書きながら改めて思いました。

 ハァイ!!(ジャンポケ斉藤風)

 不時着陸という強制ピリオドつけたので次回へヒア・ウィー・ゴー!!

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 いい判定が出た。

 高校最後の春休み前の予備校の模試の結果の話である。

 それまで模試は幾度も受けてきたが、ここに来て一つの現実が押し迫ってきた。

 E判定が出た。

 言っておくが良い判定ではない、E判定である。塾業界にとってE判定の紙とは、社員と講師と受験生が最も気にする偏差値の平均値を大幅に下げるだけの、算出費と用紙費と印刷費と人件費が掛かっただけの、いわばメモ用紙にすら使えないクズ紙である。

 この結果に対し『担任は激怒した』。

「お前さ、T工大(T工業大学)行きたいんでしょ? だったら普通にマズいでしょ? 独学なんて不可能なんだから塾に行けよマジで」

 正直これには困った。何故なら当初の脳内プランでは今頃は偏差値60台に入っているはずだったからだ。でも現実はその半分の30台をさまよっていた。

 高校2年の3学期期末試験の結果も8教科10科目(全1000点)で計607点(平均60.7点)。入試必須科目内の最高点は数学Bの78点で、最低点は英語の42点、入試に必要ない科目とはいえ世界史は39点(まあ世界史は試験日に1時間半も寝坊して、試験開始30秒前に到着したからなのだが…)。最も意識して勉強した物理においては66点で、一般入試を受けるには足りなさすぎる結果だった。

 では何故こんなことになったかと聞かれると、単に私の頭が私の期待を裏切るぐらいポンコツだったとしか言えなかった。

 そもそも自分の頭に疑いを抱いていないのだから、これ以上説明する必要もないだろう(ちなみにこれは学習障害とは関係ないので悪しからず)。

 渋々だが私は春休みを利用して、どこか塾を探すことにした。

 大の人嫌いで重度のコミュ症で一度では解説を理解できない私の条件を基にして真っ先にリストから上がったのが映像授業専門の予備校『T進ハイスクール』である。

 ただ家や学校の近所、通学路にもT進ハイスクールがなかったため、わざわざ違う路線の6駅先まで乗って体験授業を受けることになった。これで学校から一番近い校舎のだから通うとなったら色々と大変になる。

 当時のT進ハイスクールは今みたいなオンライン方式ではなく、受付後ろの棚に膨大なDVDが保管されており、生徒は受けたい講義DVDを申請して、そのDVDをミニテレビとDVDプレイヤーが設置された仕切られた狭い机で再生して各自受講する方式だった。

 そして体験授業では講義1回分を無料で受講できる。家族との相談で、全5教科の中で最も壊滅的な「数学(できれば算数)」を選ぶことになったが、算数はおろか中学数学も無いということで「数学Ⅰー[数と式]基礎①」的なDVDを選ぶことにした。

 たしか1講義90分だったが1分足らずで「あ、これ嫌い…」と骨身で分かった。そこからの90分は人生でも有数の長さを味わった。

◆(a+b)^2=a^2+2ab+b^2
◆(a-b)^2=a^2-2ab+b^2
◆(a+b)(a-b)=a^2-b^2

※「^2」は2乗を表す

 そんな基本的な乗法公式など2年前に学校の授業で受けたし、自習で何回も勉強した。でも、その公式を全然暗記できていなかった。いやこれ自身は知っているし言われたら覚えている。けどイコールの後ろ答えろと言われてると突然には答えれなかったし片鱗すら出てこなかった。

 この環境も嫌いなのだが、この明らかに学んだことを「基礎だ」と何度も何度も同じことを繰り返されて、そして毎回覚えていないことに心底イラついていた。

 講義90分が終わって「自分には向いてないみたいです…」と精神ボロボロで受付に言い残して、帰りの電車の中で今日の悪夢を早く忘れたいと願った。

 おかげで講義の詳しい内容を片鱗も思い出せぬようになったので乗法公式も脳内から消えた。

(次回に続く)

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沖田 一希
ナガセ
2014-12-17
楽天ブックス

【あとがき】

 ~~お知らせ~~

 皆様いつもご閲覧頂き
 ありがとうございます。

 この度ご報告があります。

 実は本日ブログを更新しました!

 あゥ!!(顔面右フック)ちょっまっ待ってくださッッ(わき腹ローキック)すみま…マジですんまスゥン!!!(のど元ラリアット)……これ以上ふざけたら私のライフゲージが危うくなるので正装(※イメージ)でご挨拶をさせて頂きます。

 お久しぶりです。生きてます。

 いやいやそんな薄っぺらい二言よりも、ここで書くべきこと・報告・告知・恩恵・感謝・謝罪・贖罪・……・断罪・神罰・等々たくさんあるのですが…まず土下座しながら話さないといけないことは、この1ヶ月以上の空白期間何してたですが、日常のちまちましたことを除いたら、この記事を書いてました。

 んなアホな(笑)とお思いきや、この記事もう書き終えた続き物なんですけど本編の文字数が7812文字、あとがきだけでも4903文字あるんですよね。合計12715文字ですので、1回1000文字くらいの月イチ連載コラムなら約1年分です。なっげ!!!

 たぶんこれから書く情報と切り捨てる情報をまとめていないからこういうことになるんでしょうね…。

 あんまり楽しくない話が続くのも問題なので話題変えましょう。

 本編にて模試の話題が出ましたが、今まで受けた模試の中で一番印象的だった出来事をあげるとしたら、たしか高2の秋だったか学校で受けた記述式模試だと思います。

 その模試は在校生の希望者が希望科目だけ教室で受験するビッフェスタイルだったのですが、私のいる理系クラスの一般受験組はほぼ全員が英語+理系科目で参加した中で、私は何を思ったのか「せっかく最大6科目選べるのだから文系理系関係なく受けてみるべきでは?」と英語・数学(Ⅰ・A・Ⅱ・B全範囲)・国語・理科(物理・化学)・公民(現代社会がなかったので未履修の政治・経済)で申請しました。

 模試当日、英語・数学・理科まではみんなと一緒でしたが、それから私は国語・公民を受けるためにカバン持って別会場の図書室に移動することになりました。部屋に入るとまだ誰も来ていなくて、とりあえず適当な席に座って待っていたら他の受験生が来ることなく問題冊子を入れた封筒を抱える副校長先生が来ました(ちなみに副校長先生は科学部の元顧問(物理)で、文化祭など何度か話したことがあるので向こうも私を知ってる)。

「副校長先生!! 何故こちらに!?」

「いやぁ試験監督できる先生が今いなくてね、それでワシがやることになった。あと今回の受験は渡辺1人だけだから今その席ですぐ始めて良いぞ」

 今まで様々なぼっち体験をしてきたけど、ぼっち模試(正確には試験監督とマンツーマン)はなかなか無い体験だったと今でも思います。

 しかも大人数をまとめる必要がないので自分のタイミングで模試が受けられるという好環境に甘えたにもかかわらず結果は下の下のE判定で、各科目の偏差値が30台の水槽を泳ぐ中で唯一そのフタの隙間を抜け出したのが41の政治・経済だったから自分が分からない…。

 当日立ち会ったのだから、後日その結果を副校長先生にも報告することになりました。

「まあまあ数字なんて気にすんな。そういう挑む気持ちありゃ案外何とかなっから(笑)」

 と向こうは慰めてくれたのに現実何ともならなかったから余計に申し訳ない…。

 そして謝りに行くほどの罪悪感もまた中途半端にないから、あの日かけてくれた記憶の映像を改竄して、脳内ではあの日の自分を消して慰めてくれた副校長先生に土下座しながら「申し訳ありません!!!」と泣き叫んでいます。映画『インセプション(2010年:アメリカ、イギリス)』的な自己解決法です。

「後悔していることがあるんだ。変えなければならない記憶が」――コブ(『インセプション』レオナルド・ディカプリオ)

「現実と向き合うんだ」――マイルス(『インセプション』マイケル・ケイン)

 こんな風に1人で脳内茶番劇やってます。というかこのコブとマイルスの台詞、全然違うシーンだし何ならマイルスの方が先なんだよな…。

 やっぱり茶番劇でした。

 あれ…?

 これだけで普通に記事1つ出来たんじゃないの…?

 もういいや、編集し直すのも面倒になった。

 ほらね、やっぱりまとめてない。

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