処理中に問題が発生しました。

 吾輩は根暗である。職歴はまだ無い。端の多い生涯を送って来ました。――みんなが当たり前に持っている見えないモノが生まれつき持っていない「私」。たった一つだけ足りない、それだけで日常は異常を孕み始める。常識というような空漠たる概念を、どう学べばいいか知らないし分からない。けれど常識はそれを決して許さない。これはつまらない絶望と希望で構成された日々の中で「私」を考え、そして失敗するまでの軌跡譚……という執拗な説明文から筆者(LD:学習障害)の悪癖が分かる共感度0%な長文ブログです。

2015年06月

 コンサルタント代表:見坊
 元引きこもり青年:御津子
 
 〇舞台・照明OFF
 
ニュース番組のナレーション
「ここは都内にある某アパート。そこに5年間引きこもる息子を救ってほしいとの連絡が入ったと知らせたのは、近年カリスマと讃えられる『引きこもり更正コンサルタント代表』見坊晶氏。見坊氏は直接交渉に向かうとの事で我々取材班もカメラを抱えて同行させてもらった」
 
 ――舞台が明転する。
 
 〇“203”と書かれたアパートの玄関前・本番収録直前
 
見坊
「じゃあ最終確認。アパートの階段上がった2階の奥にあるこの203号室が今回の現場だ。カメラマンいいか? ドアが開いた瞬間、俺と住人の顔をアップに撮すんだぞ? 『アップ』だぞ? いいか、チャンスは一度しか無ぇから以前みたいに失敗しないよう注意払えよ? おい答えろ、分かったか? 行くぞ」
 
 (効果音)
 カメラのスイッチ音が入る。
 
見坊
「皆様こんにちは。こちらが今回相談となった息子さんのいる203号室です。では今からチャイムを押してみます」
 
 (効果音)
 ピンポーン!……ピンポーン!……シーン
 
 カメラに向かって見坊が大声で言う。
 
代表
「えー、このように居留守を使うのは引きこもりの常套手段です。ですが私には通用しません、ここからが長い戦いになりますから皆様も覚悟してください」
 
 撮影スタッフに口を動かさないで見坊が小声で言う。
 
見坊:ナレーション
「おいテープ足りてるか? 長くなるんだぞ、本当に大丈夫か? テープチェンジ無しで頼むぞ」
 
 カメラに向かって見坊が大声で言う。
 
見坊
「では、もう一度押しましょう」
 
 (効果音)
 ピンポーン!……ピンポーン!……シーン
 ピンポーン!……ピンポーン!……シーン
 
 見坊がドアを叩く。
 
 (効果音)
 ドンドンドンッ!!
 
見坊
「御津子くん! 御津子くんっ! 怖がらなくて大丈夫だよ! お兄さんと少しお話をしよう! だから出てきて!」
 
 見坊がドアを叩く。
 
 (効果音)
 ドンドンドンッ!!!
 ドンドンドンッ!!!
 
 見坊がドアノブを回す。
 
 (効果音)
 ガチャガチャガチャッ!!!
 ガチャガチャガチャッ!!!
 
 見坊が何度もチャイムを鳴らす。
 
 (効果音)
 ピンポッピンポッピンポン!!!
 
見坊
「御津子くん、我慢しないで出ておいでっ!」
 
 横からスーツを着た青年が現れる。
 
御津子
「……あの、何してるんでしょうか?」

 見坊、御津子を睨む。
 
見坊
「あ? 今撮影中なんだよ。部外者は黙って引っ込んでろ」

御津子
「いや部外者も何もここオレの部屋ですし…」
 
見坊
「は? あっ君が御津子くん!? 良かった~!! お兄さん、君に会いたかったんだよ~!!」
 
御津子
「は、はぁ…そうですか…」

 見坊がカメラ目線で言う。

見坊
「今回のように直接ご本人とコンタクトとれることは奇跡に近いです。どうやら幸先が良さそうです!」

 見坊、視線を御津子に合わせる。
 
見坊
「ところで今日どこかに行ってたのかな? 何だかスーツっぽい服着てるけど?」
 
御津子
「いや見たまま普通にスーツですが?」

見坊
「あぁーそう! うーん…何でスーツ着てるのかな?」

御津子
「あー…実は就職が決まりまして、お世話になったバイト先に報告とお礼を伝えにいったんですよ」

見坊
「…ん? はっ就職!? 就職したの!?」

御津子
「えぇ、先々月からハローワークに通いまして。紹介された所をしらみ潰しに受けました。正直今のままじゃいけませんし、せっかく両親がここまで育ててくれたのに結末がこうだなんて申し訳ないというか苦しくて…それで一大発起してドアの外に出たんです」

見坊
「へっ…へぇー?」

御津子
「まずは就職の前にバイトで軍資金と環境に慣れようと思い、半年前にコンビニで求人雑誌を探してたんですけど貯金が無くて…履歴書と雑誌一冊しか買えないから何冊もずっと読み比べていたらコンビニの店長に声を掛けて頂いて、ありのままに事情を話したら『面接の練習』として履歴書の書き方と模擬面接に付き合ってもらった後にその店長が言ったんですよ、『採用!』と。つまり、そのコンビニで雇ってもらえる事になったんです!」
 
見坊
「ふーん…」
 
御津子
「いずれ就活したいと話していたので、それまでの短期で構わないとシフトも優先してくれた上にスーツ選びも手伝って頂いて…本当に店長には感謝の気持ちしかありませんっ!」

見坊
「あっそ、」
 
御津子
「それでハローワークで紹介された一社が大変アットホームな会社で、家族経営の小さい所ですが社長が理解してくれまして、今日の午前に内定を頂いたんです!」
 
見坊
「……」
 
御津子
「あ、今カメラ回ってますよね? ちょっといいですか?」
 
見坊
「…ご勝手に」

御津子
「あの、えっと……親父、お袋、今まで育ててくれたのに迷惑ばかりかけてしまい本当にすみませんでした。遅くなったけど時計を回すことが出来ました。初任給…はまだ難しいけどボーナス出たら家族旅行に行かない? ほらっ親父たちが新婚旅行で行った熱海とか! まだ時間かかりそうですが時計を戻してオレとまた家族になってください。それま、」
 
 御津子、感極まって言葉が詰まる。
 
御津子
「それまで…二人とも長生きしろよっ!! あぁーどうしよ、ヤバいな。さっきコンビニで泣いたばっかなのにまた出てきた…ほんとダセぇ…」
 
見坊
「なぁスタッフ、一回カメラ止めろ」
 
 見坊、険悪な表情で言う。
 
見坊
「なんだこれ? こんな情報聞いてねぇぞ?」
 
 見坊の背中に向けて後ろから御津子が言う。
 
御津子
「当たり前です。まだ両親に伝えてなかったので…」
 
 出た涙を拭く御津子。
 
 見坊が御津子の方を振り向く。
 
見坊
「いや待て、親から電話なりメールなり連絡きてたろ?」

御津子
「以前はしょっちゅうありましたが諦めたのか、ここ1年くらい連絡きてません」

見坊
「んだよ、カメラ入るって言っとけよ! 使えねぇなぁ?!!」

御津子
「使えないって…それにカメラ入るとか言っちゃったら意味ないんじゃ?」
 
見坊
「黙れ素人がっ!!」
 
御津子
「はい…」
 
 見坊が頭をかきむしる。

見坊
「こっちはさ、色んな大人が動いてんのに勝手にやられたら困るなぁ」
 
御津子
「すみません…」
 
見坊
「で、どこだ? てめぇを入れたその会社は?」

御津子
「えっ…そういうのは個人情報ですし…」

見坊
「個人情報? 2階から突き落とすぞ」

御津子
「…『見坊墓石』という葬儀会社です」

見坊
「はぁぁぁ見坊墓石!? 俺の実家じゃねぇか!! うわマジざっけんな!!!」

御津子
「えっ! そうなんですか!? ではお父様にお伝えください。『無縁仏だった私に立派な墓石を立てて頂き本当に有り難うございます』と」

見坊
「誰が伝えるか糞ニート野郎! クソっ文句言ってやる」
 
 ジャケットの内ポケットからスマホを出す。
 
御津子
「ついでに感謝の言葉も……あとニートじゃな」
 
 御津子の台詞を被せるように見坊が大声で言う。
 
見坊
「黙れっ!!!」
 
 見坊がスマホを顔に近づける。
 
 (効果音)
 プ、プ、プルル…プルル…ガチャ

見坊
「もしもし? 親父? てめぇまた俺の邪魔しやがって……あ? あぁ、元気にやってる。えっ兄貴、組抜けて帰ってきたの? しかも孫連れて!? ったく何してんだよ…で今ウチ手伝ってる、うんうん、ちょっ何で知ってるの! 孫と一緒に放送観てた!? ガキに変なもん見せんなよ…ハハッ! ああ、うん、まあ再来月辺り空いてるから帰れたら帰るわ。つか正直兄貴より甥っ子会いてぇ! うん、じゃ」
 
 見坊、複雑な表情でスマホを切る。
 
 御津子、横から申し訳なさそうな表情で見坊に話しかける
 
御津子
「…あのぉ」

見坊
「今度は何だ?」

御津子
「私の伝言は…?」

見坊
「やべっ忘れてた!!」
 
 ――舞台が暗転する。
 
ニュース番組のナレーション
「見坊氏の命令に背いてカメラに押さえた偶然が紡いだ若者二人の再生。この一部始終に幾つの奇跡が生まれたのか我々には分からない。けれども、この一部始終は幾つもの人々に希望を生み出すことに皆は分かるであろう。我々取材班はこれからも『引きこもり更正コンサルタント代表:見坊晶』に密着していきたい」
 

(おわり)
スポンサードリンク
このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサードリンク

『消臭スプレーのCM』
 
御津子(女装)
「はぁ…お父さんの枕やっぱり臭うなぁ。娘たちもクサいって言ってるし…」
 
見坊
「そういうときに『リフレッシュ』! ワンプッシュで洗濯では取りきれない臭いの元まで撃退!」
 
御津子(女装)
「…お父さん何やってるの?」
 
見坊
「いや、その、CMの真似して現実から目を逸らしてんだ…」
 
__________
 
『人狼ゲーム』
 
見坊
「……」
 
御津子
「……」
 
 お互い黙って見つめ合う。
 
見坊:ナレーション
「2人でやるのは」
 
御津子:ナレーション
「無謀すぎたな」
 
__________
 
『悪代官①』
 
 悪代官:見坊
 主人:御津子
 
 〇古びた商店・店内
 
悪代官
「主人! 年貢を早う納めよ!」
 
主人
「待ってくさだせぇ、お代官様…。明日の、明日の晩までお待ちください…」
 
悪代官
「待てるかぁ! お前ら、店のもの運べ!」
 
主人
「あぁ…やめてください。商売できんとわしら食っていけません…」
 
悪代官
「やかましい! 貴様らはこの山吹色の菓子でも頬張ってろ!」
 
 悪代官、小判の包みを地面に叩きつける。
 
主人
「お代官様…!!」
 
_______________

『悪代官②』
 
 悪代官:見坊
 主人公:御津子
 
 〇夜・高級料亭・大広間
 
悪代官
「ハハハッ! お主も悪よのぉう」
 
主人公
「まてぇい!」
 
悪代官
「何奴!?」
 
主人公
「お主らの悪事、しかと聞いた」
 
悪代官
「くっ、聞かれたのならば仕方ない……えぇい皆のもの! ではらえっ! ではらえっ!」
 
 (効果音)ワワァァ!! ガヤガヤガヤ……。
 
 見張りの部下たちが屋敷から居なくなる。
 
主人公
「えっ…大広間に俺ら二人だけ?」
 
悪代官
「けっ、部下の死に顔など酒が不味くなる」
 
 悪代官、刀を抜いて構える。
 
主人公
「やだ、俺よりカッコいい…」
 
_______________

『悪代官③』
 
 主人公:御津子
 町娘:見坊
 
 〇夜・高級料亭・庭
 
主人公
「ふっ、無様な終わりだな。足掻きは冥土で叫べ」
 
町娘
「お代官様っ!」
 
主人公
「おぉ、娘か。近く売られるところだったぞ、危なかったな」
 
町娘
「違うのっ! お代官様は職権乱用を称して私を大奥に推薦してくれただけなの! あと少しで苦労かけたお父ちゃんを楽にさせられたのに…」
 
 真相を聞いた主人公、開いた口が塞がらない。
 
主人公
「…で、では俺の嫁に」
 
町娘
「嫌です」
 
主人公
「ですよねぇー…」


(おわり)
スポンサードリンク
このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサードリンク

 父親:見坊
 医師:御津子
 
〇病院・診察室
 
 中心に医師と患者の椅子が置いてある。
 医師と父親が座りながら深刻な表情で向かい合う。
 
父親
「取り違え、ですか」
 
医師
「はい」
 
父親
「ウチの息子を取り違えたのですか…」
 
医師
「はい…この度は誠に申し訳ありません」
 
父親
「…申し訳ないで済む話ですか?」
 
医師
「それは重々に承知してます。けれども…」
 
父親
「けれどもではない! もう3歳ですよ!? 生まれてから3年間色んな思い出を重ねてきたのに今更違うだなんて…」
 
医師
「お気持ちは察しますが、それほど重要な問題では…?」
 
父親
「あんた何言ってんだ! あなたの不注意でこんな事態になったんだろうが!」
 
医師
「確かにそうです。けれども、おたくの双子の兄弟を取り違えただけで、あなたの子には変わりませんよ?」
 
父親
「それが問題なんだよ…うぅ…兄の朝陽が弟の夕陽で弟の夕陽が兄の朝陽だなんて…」
 
医師
「あの、あー…すみません」
 
父親
「ウチの子らはこれからどうなるんだ? 役所行くのか!? 戸籍は変わるのか!?」
 
医師
「あいにく医師なので詳しい法律は分かりませんが、朝陽君と夕陽君は一卵生双生児ですし、身長も体重も血液型も同じですから変わっても影響は無いかと」
 
父親
「あんたねぇ、俺が朝陽に何回『お兄ちゃんなんだから』と言ったと思うんですか? 実際は弟が我慢してたなんて、まだ小さい末っ子になんて可哀想なことを…」
 
医師
「まあ数十分しか変わりませんが…」
 
父親
「名前こだわったんですよ!? しかも双子だと聞いて兄弟で手と手を取っていけるようニコイチの名前にしたのに…」
 
医師
「朝陽から夕陽まで。太陽のように元気に。そうでしたよね」
 
父親
「それが夕陽から朝陽までって完全に太陽ないじゃないですか!」
 
 医師、少し考え込んで言う。
 
医師
「…失礼ですが、奥様のお名前。いや、どういう字の名でしたっけ?」
 
父親
「はあ? 美しい月で『美月』ですが…?」
 
医師
「そう、つまり夕陽と朝陽の間を支える月こそ奥様なんですよ!」
 
父親
「それじゃあ俺は何の為に居るんですか?」
 
医師
「では、あなたのお名前は?」
 
父親
「……三つの日で『晶』です」
 
医師
「その三つの『日』は誰の為にあるのですか? 奥様と双子の為に日が三つあるのではありませんか?」
 
 父親、驚いた表情をする。
 
父親
「……!!」
 
医師
「石器時代の家族にとって夜は恐怖の象徴でした。昼より野獣に襲われる可能性が高かったから。でも見坊さん家族は違います! たとえ夜でも家族全員で手と手を取り合って幾千の夜を越えるのです!」
 
父親
「幾千の夜を…!」
 
医師
「あなたたち家族四人揃って『白夜』になれるのです! 今は白夜の尊い空を見上げましょう…!」
 
父親
「先生…俺間違ってました! 頑張って沈まぬ太陽を目指します!」
 
医師
「そうですか! ぜひ頑張ってください!」
 
医師:ナレーション
「ふぅー…何とかそれっぽい感じに丸め込めた。余計なトラブル抱えたくねぇし」
 
 父親のスマホが鳴る。
 
父親
「あっ! すみません、妻から電話が。ちょっと席外しますね」
 
医師
「ええ、いいですよ」
 
医師ナレーション
「どうでもいいよ」
 
 父親、診察室から出る。
 ドア越しに診察室へと大声が聞こえる。
 
父親
「うん、うん、ああ……えぇ?!!」
 
医師
「廊下なのに声やっかましいなぁ…」
 
 父親、急いだ顔で診察室に戻る。
 
父親
「先生、大変です!」
 
医師
「何かあったのですか?」
 
父親
「いま妻からの連絡で、役所で家の戸籍調べたら、3年前に俺慌ててたのか、兄の出生届に弟の名を書いてました!」
 
医師
「お前も取り違えたんかいっ!」


(おわり)
スポンサードリンク
このエントリーをはてなブックマークに追加
スポンサードリンク

このページのトップヘ